旅行編、ショート編。旅行編は、エロチィック・エッセイ。ショート編は、日常些事のショート・エッセイ。創作編は、短編小説。マイ・ギャラリーは、各編の自作挿絵の収録。

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心何処ーショート 束の間の漫才
                  束の間の漫才(8/3)
 松本ぼんぼんであるそうな。浴衣に団扇を持った家族連れが、歩いている。裏町通りを自転車で下って来ると、不景気空気が停滞している様子である。人の行き交いの疎らな通りに、店のコリアン・ホステス達が駄法螺を吹き、呼び込みのチャイニーズの男達が屯している。そんな店に、興味を失って久しい限りであるから、何の関心も無く素通りして、はしご横丁の自転車置き場に、チャリンコを置いて中に入る。ぼんぼんの帰り客で、横丁の外席は、満席である。

「おぅ、今日はS大コンビかい?」
「はい、ママさんは4Fへ行ってます。今日は、ぼんぼんでお客が多いと見込んで、コンビです。学校は、夏休みですから。」

 バイト学生君二人は、味・素っ気に欠けるが、内向性・無口振りが、却って素人そのものの緩い感じを店全体に、出していてくれるので、1人派タイプの私には、丁度良い雰囲気なのである。
 夏は開放的であるから、4~5人集まると外席が、格好の酒酔い気分に浸れると云う物である。一人ビールを飲みながら、目と耳の散策をしていると、バイト学生君の知り合いが、二人入って来た。半パンに、文字の入った黒のTシャツに、手には団扇を持っている。二人とも小柄なタイプの若者である。私の居るテーブルに座った。

「お兄さん達、年は幾つだい?」
「幾つに見えます?」
「今の餓鬼どもは、捻て見えるから、高校生か? 中学生か?」
「二人とも、23ですよ。院生ですよ。」
「バカこけ、髭も生えてないのに、おっさんをカラカッチャ駄目だぞ。」

「そうですよ。二人とも、私の先輩達ですよ。」
バイト君が、ニコニコして証人に立った。

「そうか、そりぁ驚いた。親の顔、見たいもんだね。親呼んで来い。生活のセの字も、感じられん顔してるじぁねぇか。専攻はなんだい?」
「数学です。」
「数学か、数学は高2で打ち止めだから、敷居が高過ぎる。そうか、じぁお兄さん達、国語の試験して見るか。この2ページを0,3秒で読んで、意見を聞かせろよ。」
「エッ、3秒じぁ、駄目ですか。仕様が無い。遣りますか。」

  細い方は、ノリが頗る好い。連れのお兄さんも、育ちの良い付き合いを見せている。
お坊ちゃん顔の院生二人は、実に素直である。コピーを綴った黒いファイルを真ん中に、真剣な目付きで、文字を追っている。私はビールを飲み干して、焼酎を注文して口に付ける。

「エエ、好いじゃ無いですか。これは、あれですね。やぁ~ 好いじゃ無いですか。」
「この野郎、調子が好いじぁないか。家業は、逸らし屋で、特技は好い加減の詐欺師だろ。親の顔が見てえ、連れて来い。後輩は、0,3秒で、正解だったぞ。如何するや、親、呼んで来い。」

 彼等二人は、名古屋と和歌山の東海コンビだと言う。ガッチリしたタイプの方は、将来はヨーロッパに留学して、数学で身を立てる希望らしい。スマートな彼は、高校の数学の教師を目指しているとの事である。

「そうか、数学教師予備軍に、数学者の卵か・・ 分かった。じぁ、先生、俺の日記帳採点してくれよ。何点を付ける?」

C調予備軍さん。
「素晴らしいです。130点付けます。」
数学者の卵さん。
「69点と期待点11点で、80点とします。」

「この野郎、トンで無い連中だわ。こりぁ、是非とも親の顔が見てみたい。100点満点の採点に、特別枠30点を一存で設ける意図を、吟味しなくちゃ為らないけど、C調の匂いがプンプンする。若しかしたら、血筋に大分の教育行政幹部が居るかも知れんし、油断は出来ねぇ。数学者の卵にしても、1+1=2の客観学を標榜する学者の卵が、絶対に入れちゃ為らん情理点の期待点を平気で入れてる処を見ると、これまた、眉唾者だわさ。やっぱ、可笑しいわい。人間悩んだら、原点に戻れって話だ。餓鬼共の原点って言えば、やっぱり、親しか居ない。親の顔見せろ。此処に、即刻連れて来い。」
「またまた、両親の顔ですか? また、ガソリン代、上がったんですよ。これ以上、親に負担は掛けれませんよ。勘弁して下さいよ。」
「かぁ~、今度は、真理の探究前に、偽孝行の泣き脅しと来たもんだ。テクニックあるね。」
「またまた、何を仰います。達人の突っ込みに、僕達、中学の餓鬼共で結構であります。」
「いや~ アソコに一期一会なんて、立て看板あるけど、どうぞ、お帰りの節には、お持ち帰り下さい。僕達の真心のお礼です。」
「〇〇君、後ろの店の、あの看板、忘れない内に、此処に持って来てよ。」
「Rさん、駄目ですよ。人のお店の物、勝手に持って来るなんて!!」
「ほれ見ろ。善意の講義料を貰って帰ろうとしたら、刑務所行きじぁないか。危うく騙される処だったわ。そう言やぁ、伊勢の新九朗さんってのは、近畿東海地方の郷土の英雄だったわな。成る程、手八丁口八丁で、他人の看板で品を作るって寸法だな。やっぱ、親の顔が見てぇや。」
「勘弁して下さいよ。親の顔に、泥塗る訳には行きませんよ。」

 若いS大生達と、漫才を繰り返していると、時の経つのは、実に早いものである。余り長居をしてしまうと、家に帰るのが嫌に為ってしまう。そうなれば、朝起きるのが辛く為るばかりである。帰ろうとすると、スナックを閉めて来たママさんが、店に遣って来た。隣席は、男2、女3で、大いに中年の盛り上がり振りを見せている。読み出すと、続きが読みたくなってしまうから、もう少し貸して置いて欲しいとの事である。時間を見付けて、何とか絵を描いて見るから、絵付きではしご横丁シリーズをコピーして、店に置いたり常連客に配りたいとのご希望の由。打ち手としては、自分の手に為るものを、一人でも多くの人に読んで貰えるのは、これまた、望外の喜びとする処である。依存など有ろう筈が無い申し出であった。

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シリーズ・はしご横丁
                 日本の居酒屋(6/21)
六月も二十日である。そろそろ弟分の所に、顔を出す頃に成ってしまった。本日分は三枚の長文に為ってしまったが、打ち上げ終了である。夜、時間を見計らって、自転車に乗る。ポツリと雨が落ちて来たが、空の半分は明るい。明るい方向に向かうのであるから、まぁ好しとする。駐車場を見ると、彼の車が無い。今日も遅い様子である。出る前に電話を入れて置いたのだが、返事が無い。外に出た序である。こんな蒸し暑い夜は、ビールを飲むに限ると、飲み屋街に自転車を向ける。

はしご横丁の駐輪場に自転車を置いて、雨に当たらぬ様にショート綴りを持って、横丁を一回りする。市の肝いりで、番屋風の門構えで区切った、5~6人から10人程度が限度の、小さな居酒屋10数軒で構成される一角である。一番客の少ない店に入る。この店は、大きい方である。以前は韓国美人が経営していたから、何度か足を運んでいた店であるが、私の場合は酒より美人の口であるから、経営者が替わってからは、当然に行かなくなった。5人掛けの席が、二箇所設けられている。若い男女とママさんと思しき中年女性の3人で遣っている様子である。50代男2人の客は、かなり出来上がっている様子であった。幸い私の座る席とは、好い按配で間が取れている。生ビールを注文して、喉に落とす。久し振りのビールの喉越しに、タバコの火を付ける。そうこうしていると、向かいの居酒屋の外席で飲んでいた客が、慌てて中に移動している。

入梅宣言があったものも、ずーと、お天気続きであった。農家にとっては、大事な雨の再来である。長野は農業県である。非農家の私が、<文句を付ける>と、お叱りを頂戴してしまう。路地風の小道の凹みに、見る見る内に水溜りが、大きくなって行く。庇のトタンを鳴らして、雨は水溜りに大きな泡を作り始めた。乾き切った舗装の土埃を溶かし込んだ雨水の流れは、土色を呈している。逸(はぐ)れロートルが1人、降り出した雨を眺めながらビールを飲むのも、満更悪くは無い風情である。居酒屋は、余計な神経を遣わなくても好いから、気分が落ち着く。

 二人いた客が帰り、ママさんも出掛けてしまった。成人前に見えるオニィチャンと何処にでも居る感じの精々22~3才の素人娘さんの2人に成ってしまった。
「初めてですか?」
「いや、前は美人の韓国ママさんが居たから、目の保養に来ていた事もあるよ。」
そう言うと、店のオーナーは、韓国・中国・日本と三代目との説明であった。特製餃子を頼んでビールのお代わりを貰う。手持ち無沙汰の様子で、私のテーブルのファイルに興味があるらしい。
「興味があるか?」と聞くと、素直に頷くからファイルを彼女に渡す。読めない漢字ばかり、難しい事が書いてある。と言いながらも、真剣な眼差しで読み進んでいる。1篇を読み終えて、内容は朧気ながらも分かったと言う。
「そうか、そりぁ悪い事をした。だったら、この辺りが馬鹿話を打ってあるから、いいかも知れんぞ。」と彼女に渡す。
「すいません、餃子、ちょっと時間が掛かります。」
「忘れていなかったら、好いよ。飯は食べて来たから、ゆっくり遣りなよ。」
 
外の雨脚は、本格的である。傘などと云う洒落た物は、持ち合わせていない。濡れるのは、然して苦には為らぬが・・・ これでは迂闊に外へは出られない。若い娘さんは、クスクス笑いながら、読書タイムである。雨の強弱を見ながら、当分雨宿りをさせて貰うより仕方が無い。ビールを追加する。
「2人は姉弟かい?オニィチャン歳は、幾つ?」
「違います。18です。生活費の足しにと、アルバイトです。」
「そうか、じゃ新品の大学生か、出身は?」
「岐阜です。」
「そうか、じぁ、次、読んで見てよ。オッサンの日記綴りだよ。」

若者は、素直である。餃子が焼き上がると、早速ファイルを取って、読み始める。熱々の肉厚餃子は、自慢の一品の名に違わず上出来である。きっと彼はS大の新品1年生であろうが、成る程、読書スピードは速い。腑に落ちない個所は、スゥィッチ・バックで読み進めている。実に素直にして真面目な若者である。読み終わって、書くのが職業かと真顔で訊ねられてしまった。一瞬、何と応えて好い物やらと迷ったが・・・ <嘘は、泥棒の始まり>と云う。老母の在宅介護をするシガナイ賄い夫と正直に応える。
 
新品の1年生だから、抽象語・抽象の世界を具体語・具体の世界に置き換えるのが、未だ出来無いから面食らってるだろう。高校の教科書と違って、大学の教科書は、やたらと文章が長くて、何処が主語で、何が動詞で目的語か? 皆目見当が付かない。おまけに、知らない漢字ばかりと来ている。漢字字典を慌てて、買いに行く羽目だろう。授業と来れば、教授が黒板も使わず、坊主の経見たいに立て板に水で、ポンポン授業を進める。こいつ等の頭の中は、一体如何成っているだと、泣きたくなる。周囲を見渡せば、皆、優等生の様な顔付きだ。1ヶ月や2ヶ月で友達が出来る訳が無い。嗚呼、背伸びをしてしまった。授業に付いて行けるか・・・ どうだ、オニィチャン、そんな処だろう。<ハイ・・・>と、素直に頷く若者である。
ソソ、ソクラテスかプラトンかぁ、みんな、悩んで大きく為った。安心しな。これは、40年位前に流行った大ヒットCMの一節だよ。抽象語・抽象世界の具体語・具体世界への置き換えのコツを覚えれば、右手でページを捲って、左手で亀頭の先端を撫で回す事なんか、ヘイチャラに為るよ。・・・・・・・ <そうですか。最後の所は、直ぐ分かりました。>

「それにしても、益々、雨脚が強くなって来たね。困ったねぇ。」
「傘ありますから、どうぞ、持ってて下さい。」
「借りて行けば、返しに来なければ為らない。そう為ると、また飲んでしまう。止めて置こう。」
「好いじゃないですか。その時は、絵を持って来て下さいよ。お願いします。」
「そんな事したら、悪い癖が付いちゃうよ。何しろ、俺は貧民のビンボーニンだわさ。」
「そんな事、気にしないで下さい。どうせ安物の傘ですよ。」
「俺は生真面目なんだよ。小振りに成る迄、居るよ。商売だから、只で雨宿りも出来ない。豚カツ揚げてよ。」
「はい、有難う御座います。」

今度は、オネェサンが豚カツを揚げてくれた。大盛りのキャベツに添えて、ドレッシング2本、マヨネーズ1本を出して、
「キャベツが一杯あります。お代わり自由ですから、遠慮しないで下さい。必ず傘差して下さい。返しに来る時は、他の絵を持って来て下さい。私は学校の時、勉強しなかったから、漢字も言葉も貧弱なんです。その点、絵の方が分かり易いでしょう。人間には、息抜きが必要ですよ。」
「おゃまぁ、巧い事を言う物だ。差し詰め、この店の看板娘かい?」

 雨脚が、少し弱まって来た。カラオケに行った客の後に、30代の男が入って来た。マラソンを始めて、体重が高校時代に戻ったそうである。1日置きに20km、2時間に及ぶ走りだと言う。私は、自分の太鼓腹を摘んで、20km・2時間を反芻して、大きな溜息を吐いた。

 時計は、11時近い。お代わりのキャベツを処理して、外を見る。小振りに近く成って来た。重い腰を上げる事にする。丁度、酔っ払い客が、4人程入って来る。席を譲って、外に出る。差し出された傘を断って、絵は持って来るから心配無くと言って、自転車に乗る。昇り勾配であるが、雨に当たる時間を短縮するより他無い。酔っ払いであるが、背に腹は替えられぬ!! ハイ・ギアして、雨の闇に漕ぎ出す。エッコラサ・エッコラサである。距離の半分まで来ると、大分酔いが、回って来た。恨めしい雨であるが、ペダル漕ぎを止める訳には行かぬ。息切れにローギアに替えて、<遣って遣ろうじぁないの、一日置き20km・2Hにくらべりぁ、屁の河童である。>上り勾配、辛抱の足掻きである。

                   ご明察(7/5)
 長期入院を終えて、生還した我がパソコンであるが、今の処、快調に作動している。ブログを開いて見ると、<はしご横丁>で話題に為った〇〇さん事MR,Mから二つコメントが入っていた。見事に正体がバレてしまったので、早速、その旨礼を送ったのであるが、私はメールを遣っていない。私は柄は悪いが、本質は生真面目である。彼も、その口である。その同心円でバンカラ男子高の地位を築いて来た母校である。お互い高校以後、殆ど顔を見ていない間柄であるが、<無しの礫>では男の仁義が、廃れると云うものである。
お互い、直接的連絡手段の無いままである。斯く為る上は、中継地点の<はしご横丁>に足を運ぶしか手立てが無い。『虫眼鏡老人1・2』を預かっているとの文面であった。あり難い事に、ブログの方も読んでくれているとの由。問題出題者として、彼が正解を出してくれたのであるから、私としては感謝の意を表すべきである。一日掛けて本日打ち上げた『3』を印刷して持って行く事にする。

 週末金曜日であるから、店は繁盛していた。空いた席を探すと、前回の後輩殿が居られる。昨日、彼はMの会社を訪ねたと言う。コメントにあった〇〇氏が、この後輩殿なのであろう。Mは、私からの返事が来ないから、不正解を気にしていたらしい。退任ホヤホヤの前社長自らの2工場の案内を受けて、彼は先輩の人柄に恐縮頻りであったらしい。
ママさんに下手絵表紙の<はしご横丁・せれくと>編の入ったコピーを渡し、斯く斯く云々の旨を伝えて、別紙の『3』共々Mへのプレゼントにして貰う。残念ながら本日、彼は不在との事であった。

 前回不在であった若い娘さんが居た。前回分の主役であるから、その件を開いて彼女に渡す。
「わぁ、そのままが書いてある。面白い!!」と手を叩いて、言われてしまったから、
「失礼な事を言うな。それじぁ、俺は、全くの馬鹿じぁないか。」
「どうして? あの時の光景が、そのまま、グワ~と眼に浮かんで来ますよ。」
「俺はビデオじゃないんだから、3時間ドキュメントを、読書時間10数分の文字世界に翻訳・編集してるんだぜ。起承転結を付けて、<日本の居酒屋>ワールドを創造してる積りだよ。」
「先輩、言う事が違うね。巧いもんだ。俺の読む分もある?」
「あるよ。弟子の所に置いて行く分があるから、此処、あなたが主役の編だよ。」

後輩殿は、すっかり愛想を崩して、<奇遇なり>を早速、読み進める。オネェさんが読み終わった綴りを、バトンタッチしたママさんが、
「何処が、そう?」
「はいはい、ママさんの主役編は、此処から。」
私はカウンター越しに、ページを捲って彼女に渡す。
「読書は集中だから、★★ちゃん、私、外のテーブルで読んでるから、何かあったら呼びに来て。」

 ママさんは、肉厚のヒップを揺すって出て行った。私の正体を喝破したMのコメントには、<好色ジジイ老いて、益々盛ん。>の行があった。同根の輪であるから、気取って見ても始まらぬ。

 私は、気の弱い? 物分りの好い? 引っ込み思案の強い? 没個性? の男であるから、皆さんのお邪魔に為らぬ様に、グラスの芋焼酎を飲み続ける。いずれにしても、自分の書いた物が、他人様が嫌な顔せずに、読んで下さるのである。書き手・打ち手としては、望外の喜びと言った処である。

「あら如何しましょう。ブログで全国公開されて、北は北海道から、南は沖縄から、はしご横丁にお客さんが殺到したら、シェイプ・アップ間に合わないでしょう。困ったなぁ~」
「何こいてるだい。ママは、そのデカイおっぱいとケツが売り物じゃん。化粧は顔だけでAだ。」
「ご立派、さすがに続編の主役さん達の台詞だわナ。俺は、評論家の三宅先生見たいに、ズケズケ物を言えないけど、<馬鹿な事、言うんじぁ有りません。人間がお下劣です。反省しなさい。>って処だね。」
「ちょっと、しらふで凄い事、仰るんじゃ無いのかしら。」
「いや、俺、昔から三宅先生のファンでサ、この常套句、一度言って見たかったんだ。ヘヘヘ。」

 週末の居酒屋は、客の出入りが激しい。人の縁とは奇な物である。入魂客のMの顔で、親しく無用心な言葉のキャチボールが許されるのであるから、大いに得をした気分である。来た甲斐が有ったと言うものである。

「先輩、本日分の収穫はあった? 黙っていると、敷居の高い人に見えるけど、何年も前から、付き合っている様な、錯覚を覚えちゃいますよ。俺、本は、それなりに読むけど、文章書くのが苦手で、何か書くコツでもあるんですかね?」 
「まぁまぁ、謙遜しちゃって・・・ 同じ校門を潜った間柄だから、潜在能力は同程度だろ。コツなんか無いよ。文章は正直だから、身の丈で書けば、如何にか為る物さ。自分に無いものは、幾ら背伸びをしたって、手が届かんだろう。足場の悪い所で、ずーと背伸びしてたら、不安定さで足はガクガク笑っちゃって、筋肉痛の徒労に終わっちゃうよ。文明の利器の脚立・高所作業車を使った処で、そりぁ、出典バラバラのモザイク模様って物だわさ。文章は、ショーン・コネリーのハムのCMじゃないけど<手作り>作業だよ。手作りの味が、活字の味って物だろうさ。下手に<有名本>なんか読んだら、ある程度の奴は、真似をしてしまうだろ。真似癖が付いたら、独立独歩するまでに、これまた時間の浪費だよ。能力を100%使い切っちゃったら、精神動物の人間は、心気症の連続で、<明日のジョー>になってしまうよ。長生きの入力が、腹八分目なら出力だって、七割辺りが妥当じゃ無いの。能力を100%以上出したいと思えば、充電電池じぁないけど、それなりの蓄電をして置くより方法は無いだろうからね。」
「やいやい、こりぁたまげた。影に悩む、俺の深層心理を診断してるね。」

 アリャリャ、ボタンの掻け違いで、後輩殿と人生論を交換する羽目に為ってしまった。高校時代を振り返って、楽しく遣っていると、呂律の回らぬ程の年配客がテーブルに入って来た。日本人であるから、それなりの言葉の交換をするが、呂律同様に頭脳回路も寸断されている様子である。こんな御仁のお相手は、<御免蒙りたい>処であるから、次第に私の口は閉じられて来る。  

後輩殿は、さすがに家業の現役社長業である。酔っ払い社員の扱いは、私と異なって数段上の手馴れ振りである。話の進展で、親の在宅介護を弟所帯に任せている事から来る自分の不甲斐無さに、深酒の原因がある様子であった。

 世の中に、よくある話にして、私の個人的結論からすれば、『甘えの典型』である。私と立場が、全く逆転しているケースである。末生(うらな)り男の口調は、益々エスカレートするばかりである。不思議な事に、末生り親父の一向に繋がらぬ頭脳回路と呂律回路なのであるが、<チクショウ、バカヤロウ!!>ばかりが、大声にして言語明瞭なのである。見ず知らずの他人様に、私の爪の垢を煎じて飲ませる『暴挙』にも出られぬ・・・ 見たくは無い人生の縮図である。

<バカヤロー、コンチクショメ!! あっ、こりぁ、どうもスイマセン。>

アジャジャ、下衆ウラナリ爺の大音響と頻度が一段と、活発に為り始めている。話の腰を折られて、困った泥酔者のお出ましである。冷酒コップの呷(あお)り具合は、大した物であるが・・・ 木枯らし門次郎の私としては、『御免なすって、アッシにぁ、係わりのネェ事ですから。お暇を頂戴いたしまさぁ。』此処が潮時と言うものである。下戸には、<酒>は、誘因には為らぬ。

はしご横丁の余韻が穢れるから、店を出る。
深夜の新聞受けに、先月分のコピー綴りをそ~と入れて帰る。


             吾ら、変わらぬを愉しむ(7/12)
 さぁさぁ、40年振りかも知れぬ顔合わせである。Tに連絡すると、二つ返事で顔を出すとの事であった。弟分にも今日飲むと連絡をすると、OKの返事である。彼の連絡かミズの連絡かで後輩氏も、きっと顔を揃える事であろう。面白い展開と為りそうである。

 興奮でもしたのであろうか、少々腹が痛い。馬鹿の一つ覚え太田胃酸を二匙、口に放り込む。昨夜と言うより、二時に目が覚めて眠れぬ儘、五時辺りまでブログを見ていたのが、拙かった。『馬鹿は、風邪を引かぬ』の例外らしい。睡眠不足を風邪薬を飲んで、ひたすら夜に備える。

 約束の時間には、未だ間がある。昼に予定していたコピーを、コンビニで取る時間があった。
居酒屋に入ると、一番乗りであった。若いお兄さん二人の席に、入り込む。確り出来上がっている様子である。一人は中々の男前である。愛想のある笑顔で、言葉を交わしてくれる。トイレから戻った男は、兎に角、酔っ払いの<元気の良さ一辺倒>の男である。呂律の確りした口調で、ワンパターの連続である。前回の<バカヤロー、コンチクショウメ。あっ、どうもスイマセン。>のヤング・バージョンである。如何やら、この席は、大トラ指定席なのであろう。

「元気が好いな。勉強が足りんのだろう。これでも、読んでろ。」
と、弟分に渡す編の内から、この居酒屋編を手渡す。得体の知れない風体の悪いオッサンに言われてしまうと、若い者は抵抗出来ないである。私は、待ち人を待って、ニヤニヤしてビールを飲む。兎に角、彼等の遣り取りが面白い。酒を飲むタイプと飲まれるタイプの掛け合い漫才である。

「あの~ 斜め読みで好いですか。」コピーを渡された若トラが、私に聞く。
「生意気じゃないか。後で試験するから、遣って見ろ。」
「了解です。私、斜め読みのプロです。」
「能書きは好いから、お前、読めよ。」男前君は柔和な顔で、手酌・マイペースの口調で言う。
「お前に、そんな事言われたくないね。」

おお、仲の好い連中である。二人を見ながらビールを飲む。若トラは、飛ばし読みの好い加減男らしい。軽口もご愛嬌であるからして、
「プップッー、タイム・オーバー。試験開始。」
「馬鹿に早いじゃないですか。えぇ~、え~とですね。これは、人生の事が書いてあります。」
「調子の好い事、抜かして。斜め読みとすっ飛ばし読みとは、月とすっぽんだろ。」
「へへ、ばれちゃいました。ボクチャン、昔から漢字、弱いんです。」
「馬鹿が見栄張って、如何する。これ以上飲んだら、次に行けんぞ。Sチャン、お愛想して。」

さてさてと、我々のお時間の様である。この大トラ席には、一体誰が座る羽目に為るのやら?
タバコを吸っていると、早々Tの登場である。続いてミズである。
「おうおぅ、R、その頭は如何した?」
「おぅ、懐かしい。ミズだわ。品は出て来たが、偉く草臥れた感じじゃないか。社長業は、過酷だった見たいだな。何年、富山に居たや。」
「八年だ。やいやい、T久し振り。覚えているぞ。柔道部、次鋒Tだ。」

三言四言、言葉と表情を交わしていると、『逆・浦島太郎』の霧の晴れ間である。紳士のミズは、ご丁寧に高校時代の同窓名簿持参であった。流石に総務畑を歩いた男である。サラサラとページを捲って、クラス毎の写真を開いて、過ぎし我々の紅顔を提示してくれる。

「Sちゃん、これが、こいつだよ。髪の毛、リージェントだよ。好い男振りだろ、それが今じぁ、この有様だよ。」
「えぇ、ホント、ハンサムで格好好い。でも、ヨクヨクと見ると、面影ある。」
「ナンチュウ事言うだい、ネェチャンは。他人が聞いたら、丸きり、今、零点って事じぁないか。」
「R、昔は昔。今は今。過去の栄光は、捨てなくちゃ。」
「クァ、グウの音も出ないが、胸にズキンと来る事、平気で言ってくれるわ。俺ぁ、帰るぞ。」
「オネェチャン、Rに<頭巾>持って来てよ。」
「あのぅ・・・ ズキンって、何ですか。」
「あのな、こいつ等、下品の下等動物だから、俺が翻訳するとRは、リージェント忘れて来たから、若いSチャンの手前、恥ずかしいってさ。それで40年前に遡って、格好付けたいってサ。Tの武士の情けだから、タオルでいいぞ。無けりゃ、黒く汚れた雑巾の方が、好いわ。」
「これを、逆説的友情って言うんだ。テヘヘヘ。」
 
Tの奴が、得意げに眼鏡の奥の目を、皿の様に大きく見開いて、グルグルさせながら、ニンマリとしている。
「アッア、あ~ クックック」彼女も目をクリクリさせると、身を捩って笑いこけている。彼女はおっとりタイプらしい。ずれた分、笑いが尾を引く、弱った物である。

「Sチャンだったけ、俺達、大分頭良いから、テンポ速いよ。付いて来れるかなぁ、くっくっく。」
「T、何が、くっくっくだ。Rと俺は出来好かったけど、Tは例外だから。」
「やあやあ、ミズ、Tは最初優等生で18番だぜ。」
「おう、そうそう。出る時は、418番で俺の後は、一人だけさ。卒業式前に、そいつが死んじまったから、実質、俺がドベッケツの栄誉賞よ。如何だ、参ったか。」

紳士の中身は、用意周到な軽口男である。彼は中肉中背の温厚タイプにして、一番のスマートな体躯の持ち主である。ごま塩の頭髪に墨汁をぶっ掛けて、顔の皺にタップリ霧を吹いて、一気にアイロン掛けを施せば、瑞々しい紅顔の好男子の蘇生である。そのミズが、小声のポーズを取って、大きな声で、
「立派じゃないか、T、あれだな、貴方は偉い。デカイ声じゃ言えないけど、<4>は、余っこだよな。4さえ無けりゃ、入りと出は、18で帳尻は合ってるものなぁ。常人にぁ叶わない壮挙だぜ。十二分に栄誉賞に値するよ。俺応援団遣ってたの知ってる。フレー、フレー、T~」
「ミズ・パパ~ アナタハ、心ヒロイ。心ヤサシイ。モウ~ 許チャウ。如何にでもしてぇな。」

促成の三馬鹿結成である。次から次へと話題過去・話し手現在が、乱舞して行く。週末十時を回ったはしご横丁の居酒屋は、馬鹿を巻き込んで、快調に時を刻んで行く。途中参加の弟分・後輩氏は、七歳年長・バンカラ男子高親父連のゴタ話に、合いの手を打って応えてくれる。

一挙に土蔵解禁のお蔵出しである。記憶の猛者連中が目白押しであった。授業中の隠れ喫煙
テクニック、退屈授業での机上の豪快放屁パフォーマンス、試験後に行われていた一軒家公民館コンパで行われた射精遠距離大会、性教育版として、有志二人による愛のラーゲ48手公演、・・・etc
聞く処によると、実演の女役のトミーは、若くして他界してしまったとの事である。普段は大人しい男であったが、奴は弱いくせに何故か、相撲部であった。国語の能力は群を抜いていたのだが、コンパでは深酒が祟って、ラーゲ公演に嵌っていた男である。兎に角、異常な側面を持った奴であったから、出身中学別に挙行されていた<闇コンパ>から、出演依頼の殺到していた男であった。如何やら、彼のトミーは、高校時代に自分の秘められた才能に、気付いてしまったのであろう。時間を掛けて、彼の才能を徐々に開花させて行けば、一角の芸術家に為れたかも知れぬ。残念な男の一人であった。

<類は類を嗅ぎ出す臭覚>に長けていたのであろうが、硬派の私の性格をからかって、R、R、アイラブユーと、身を擦り付けて来る、大戯けであった。とんでも無い奴が、浮上して来た物である。あんな野郎に、R、久し振りなんて、夢に立たれてしまったら、偉い事に為ってしまう。忘れずに、寝る前に俺は美形女専門であるから、会いに行くならミズかTにしろと、きつく引導を渡す心算である。トミーの訪問を受けたら、この二人如何対処する事やら、先が楽しみである。※何を隠そう・・・ 出身中学の違う彼の特異稀なる異才の<先鞭>を付けたのは、私であった。
真面目なガリ勉連中からすると、「異常行動」に見えるのであるが、三馬鹿の目からすると、『異才行動』の一つにしか過ぎなかったのである。

仕切り屋無しの裏話オンパレードに、後輩両人は開いた口が塞がらないらしい。夕日の三丁目の監督は、後輩との事であるが、こんな先輩達がメガホンを採ったら、即映倫カットの自主公開のマイナー映画に転落してしまうのは、必定である。

不在のママさんは、二次会場のクラブでお待ちかねとの報である。ヤクザ顔負けの風体の4+1のご一行様である。羽交い絞め・寝技の使い手にして、ビール瓶ゴツンでもへこたれない剛の者Tは、早くもその片鱗をプンプンさせて来た。弟分は、Tとは初対面であるが意気投合の進捗状況である。彼は、得意の英語ソングを披露して、ママさんをうっとりさせている。

「駄目駄目、十分間を取らなきぁ、片方の手で羽交い絞めされて、余った手で、ホッペをアイアン・クローされて、思わずギブアップの舌出したら、思い切り、吸われちゃうぜ。」
「R、何コイテルだ。ドサクサに紛れて、お前は、何時も何してるんだ。トンビに油揚げだろ。」
「何、お前ぇ達、何時もそんな事してるのか、許せねぇ。それで、俺の受け持ちは何処だ。」
「Rは、ビックだから、一番後だ。こいつは猪突猛進型だ。自由にさせといたら、危なくてしょうが無い。そのビール瓶でピカリの頭、食らわしとけ。メンタム塗っとけば、死にぁしねえよ。」
「そうだな、猫の時と比べりぁ、皮は厚いからな。タァ、ハハハ。」
「コノ馬鹿野郎友。俺ぁ、恥ずかしくて何にも言えない。挿絵の件で、ママさん、隅で静かに話をしよう。インテリの話をしましよう。」
「ママ、隅の暗がりは危ないよ。直ぐ、得意のもの出すよ。目が潰れるよ。」
「バカタレ。だから長い付き合いは、玉玉だよ。先越されて、打つ手が無いよ。<チクショー、バカヤロメ。あっ、これまた、失礼しました。>如何だ、台詞決めたぜ。グ~だぜ。」

 友情と母校の品位を汚さぬ為に、そして私の善良なる市民の品行を守る為にも、これ以上の事は、守秘義務の範疇である。

少年老い易くして、一寸の光陰、軽んずべからず・・・・
『吾ら★★健児は、未だ痴頭・春想の思い抗せず。』のゲラゲラ談義であった。古人は、知性に富んで居られた。馬鹿人は、一寸の光陰を軽んじて、昔のガクラン姿の儘であった。時計を見遣れば、早や一時半のお越しである。奇遇が、プレゼントしてくれた一夜の『青春お里帰り』である。凡人ロートル男連からすれば、<少年老い易くして、変わらぬを愉しむ。>の感懐であった。

 追伸
ミズが、Rの文章は、テンポが好いと言ってくれた。漢字が多過ぎる帰来は、ある物の十分通用するぜとの事であった。挿絵の件については、昔、絵を描いていたママさんが、イメージを纏めるから、ファイルを置いて行けとの嬉しい反応振りであった。
弟分に、一度親友のTに引き合わせるとの約束も果たせた。二人とも、数少ない私の読者であるから、T並びに弟分の具体的イメージの交換が出来て、有意義であったと思われる。話の向きでは、今度フィリピンに同行するの話に為ったそうである。ミズは、私の駄文に登場するフィリピーナ貢ぎ男が、Tで無い事を再三確認して、安心した様子である。
本日、私服参加の後輩社長殿は、時為らぬ<ミニ版同高際>の盛り上がり振りに、後輩の栄誉を痛く感じてくれた様子である。最後は何十年振りかの校歌斉唱のタクトを、振ってくれた。一癖も二癖もある好男子連であるが、癖が後退した処に、男の味が滲み出て来るものである。何しろ結成されたばかりの<奇遇の輪>である。

          番カラの 癖を重ねて歩む 漢(おとこ)道
          何時しか 癖の陰に滲まん 男の味と味       
                                  県 陵 (アガタ・リョウ)

                 
                 はしご横丁の夏(7/22)
 ビールが飲みたかった。後輩殿とママさんへのコピーを持って、9時のスタートである。土曜日のはしご横丁は、外席も満員の様な盛況振りらしい。夏の暑さと三連休の開放感からか、何時に無く高揚した酔いの雰囲気が、溢れている。
<こりぁ、盛ってる。コピーだけ置いて行こうか>などと、感じながら店にの方に歩く。中央にある外席には、浴衣着の中年女性を中心とした一団が、団扇を仰ぎながら、ワイワイガヤガヤの、2オクターブ上の盛り上がり振りである。見るからに、夏夜の盛り上がり絵である。

何とした事か・・・ 有り難い事に、店の客は二人である。

「あら、昨日、お弟子さん来たわよ。」
「うん、聞いた。今日は疲れたから、寝てるって言ってたよ。凄い盛り上がり振りだね。客少なくて好いのかね?」
「さっきまで、ここに居たの。<井戸を巡る会>の常例会なんだって。」
「ああ、そう。」

 私は生ビールを注文して、デジカメならぬ興味の眼を、彼等一団に向ける。成る程、席の中央には、会の会長先生と思しき私と同年輩らしい眼鏡の人物が居る。学校の教師達も何人か混ざっているらしい・・・ そんな感じのである。使用する言葉の中に、それを確かめ様と聞き耳を立てるが、集音出来ない程に、はしご横丁の夜は、盛り上がっていた。

<そうです、下衆の勘繰りは、ハシタナイ所業であります。>

「一段落したから、早速、読ませてもらうわ。★★クン、噂の人よ。お相手して。」

ママさんは、容姿共にのほほんとした親しみを、提供してくれる人である。笑みを含んだ目元が、何としても、穏やかにして・・・柔らかい。

「何処かで見ている・・・ 会っているんだけどねぇ~」
「俺も、そう思うんだよね。この手の顔と俺の顔は、カップル顔なんだけど。好い男に好い女のベスト・マッチの筈なんだけど。何事にも、当たり外れは、人の世だからね。」
「何々、そのカップル顔って、初めて聞く言葉だけど。」

斯く斯く云々でと、雑駁な私見を披露する。映画・ドラマのコンビ顔、周囲のカップル、夫婦の顔と顔、雰囲気から、男と女の顔付きの兼ね合いを、グループ別に考察すると、そこには何らかの組み合わせの原理が、働いている感じを持つ次第であった。所謂、好みの顔の譜系為る物が、在りそうである。そんな事で、昔、自分の皆無に等しい経験を核に、傍系幾多のサンプル・カップル顔について、真面目に考えた経緯があった。頭で決め付けた自説を元に、逆追いを試みると、当たらずとも遠からじの感を強くした次第である。統計学の詭弁を弄して自説を吹聴すると、ママさん真顔で、

「この手の女の好み顔は、あの手の男顔って、事ね。そのカップル顔に、的を絞るとデートの成功率が、倍増するって結果に繋がると云う訳ね。ふ~ん、初めて聞いたわ。皆さん、昔、Rは頭脳明晰の好男子、今じゃ好色エロ親父って言ってたし・・・う~ん、Rさんが言うと、一理あるみたいに思えて来ちゃうわ。正体不明のオーラを持ってる人ね。」
「碌な事言わないね、あの馬鹿達。俺も同類、こんな事聞けたら、あいつ等に袋叩きにされちゃうね。認める。さて本題に戻ると、押して駄目なら、引いて見ろって云うもの。逆も亦、真なりって、名言があるじゃないの。俺は、心理の探求者だよ。気付かぬ心理の奥に、人間感情の真理が眠っているんだぜ。へへへ。」
「で、勝率はどの位?」
「好く聞いてくれたじゃん。今時の女は、外観に目が眩んで、海坊主には、押しても引いても、昔日の想い頻りの昨今だから、大人しく蟄居謹慎の日々であります。」
「何か、耳慣れない古語の連続だったから、聞かなかった事にして置くわ。フフフ。」

 ママさんは、続いて読書に移る。彼女の表情を肴に、ビールを飲みながら待つ。字面を追う目元に、笑いが浮かび、小さなクックの含み笑いが出ている。前の外席では、帰りますの声が聞こえる。すらりとしたパンツ姿の中年女性が、数歩、歩いて
<アラ、珍しい。〇〇チャン。>と、団扇に浴衣の中年女性と、立ち話を開始した。夏の三連休の初日である。慌てる事は、更々不要なのである。子供達は、大きかろう・・・

サンダルにタンクトップ、短パンが、千鳥を踏むはしご横丁、次なる暖簾は何処や・・暑さに浮かぶ酔いの空間は、時間の刻みを間延びさせて進む。今宵、ビールのうま味である。

さてさて、貯蓄ストーリーの枯渇である。本日の主要宿題<ぶっ掛け屋・その2>のスケッチを、幾つか収集して行かねば為らない処であった。ママさん、今日の商いを団体さんで、早々にゲットして、後は流しの風情である。私は剥き出しの脛に、蚊を追う平手打ちである。

 続いて、コピーを受け取った大学生アルバイト君、椅子に細身の体を深々と座り、難しい顔付きで、字面を捲っている。

「コラ、お兄ちゃん、試験勉強じぁあるまいし、真面目な顔をして読むな。丸で下らない物に、接している顔じゃないか? 強制読書じぁ、可哀想だ。」
「えっ、面白いですよ。」

そう言われてしまえば、若者の読書の邪魔をする訳にも行かぬ。気の弱い私は、ビールに替えて、焼酎を注文する。トイレがてら、横丁の一角を一周して、頭の中に幾枚かシャッター保存をして来る。出入り口の長ベンチでは、酒の不要となった酔い客が、片足を着いて宵の続き話を交換している。盛況振りに、私も立派な正常人の意を強くした次第である。暑苦しい居住空間から、偶には解放されたいと願うのが、市井の一般人の行動なのである。マイノリティの異才を放つよりも、日々在るものを、その他諸々の多衆に混じって過ごす方が、ぴったり来る。

人間は一人の方が、気儘に過ごせる時もある。

「如何した、お兄ちゃん、こんな物は、受験勉強の単語カードみたいなもんだぜ。左手でカード捲って、右手でジュニア・シャカシヤカして行かなくちゃ、一日は24時間だよ。お前さんも、遣ってただろ。」

海坊主が、おどけた仕草を演じて遣ると、アルバイト君、途端に白い歯を見せて、青年の顔で笑って見せた。<そうそう、それで好いのである。人間、老いも若きも、根底は同じである。>
話を聞くと、理学部2年生との事である。将来は学校の先生を目指していると言う。それで、家庭教師のアルバイトを長らくしていたのであるが、学童相手のアルバイトでは、社会勉強には為らないとの疑問が生じた由、社会勉強なら、水商売と頭に閃いたらしい。

「そうか、マトモじゃないか、気に入った。話し相手に為るか?」
「はい、皆に聞いてます。興味を持っていました。教えて下さい。」

大学2年生は、大人の入り口である。私もタイムスリップして、当時の自分を浮上させながら、有る事無い事、立て板に水の速射砲をかまして遣ったから、大変な事に為ってしまった。痴性=優、知性=不可であっては、希少の読者にそっぽを向かれてしまう。従って、痴性部分を思い切って、削除する。以下のエキスに基づいて、希少の読者諸氏は、類推解釈されたし。

「3/31詰襟・学生、4/1ネクタイ・先生。心臓のハート、右に生徒の心・左に先生の心。分かれ道・左右の争点の所在。説得色々、手法のバリエーション。評価色々、動機論・結果論・折衷論、匙加減色々、配合色々。教師は、人間を売る仕事。記憶は、人間性に宿る。先生先生と威張るな、先公、センコウ、生徒の成れの果て。生徒生徒と威張るな、生徒、生徒、先公の一滴。凡人、八割吸収、出力八割。80%×80%=64%=及第点 人間、無理をしちゃいけません。武田信玄・六分勝ちの奥儀。無駄の効用。異常者、解らぬ正常者の頭の中、正常者、解らぬ異常者の頭の中。解るは、二生りの少数者。え~と、後、何でしたっけ・・・幽霊の正体見たり、枯れ小花。それに・・・」
「ハッパ、64だろ。そんなに欲張るなよ。バカタレ。そんな事、俺に聞くなよ。俺は自慢じゃ無いが、『一過性の男・即興の男』と言われてんだよ。でもなぁ、医学的には、<健忘症>って話だ。これ以上、講義が聞きたかったら、授業料出せ。」
「好いですよ。僕、お代わり作ります。」
「好いよ。俺は、下戸なんだよ。気にするな。」

 やいやい、好青年に釣られて、客の居ない事に乗じて、悪い癖が出てしまった。作中、『虫眼鏡老人』の浅はか・悪態振りを、縷々打っているのであるが、老人の口癖が、如何やら私に乗り移ってしまった様子である。<遺憾遺憾!!> 常人から見たら、笑止千万の沙汰である。気分のスイッチを切り替えて、常人モードに戻るべしである。

「お兄ちゃん、ママさんが仕事してるよ。読書は後回し。」と小声のアドバイスをしてから、
「ママさん、俺、手伝おうか? それとも、柄の悪い海坊主が中に居たら、客が寄り付かないか?」
「どうぞ。きっと、客商売が似合いますよ。海坊主なんて謙遜しないで、十分過ぎるほど、現役の魅力がありますよ。回転が速くて、話術が巧みですよ。物書きさんは、気難しい人が多いと云うでしょ。話には、スマートな漫談の雰囲気がありますよ。」
「じぁ、さしづめ俺は、ケーシー高★って事か。」
「何を仰います。月とスッポンですよ。」

乗せ上手が、繁盛の道である。ボロが出ぬ内に、退散すべしである。マダマダの押し問答をしていると、男女二人連れが入って来た。

「あれ、その顔、何処かで見たぞ。」
「何言ってるダァ、ヤダネェ。散々、騒いで居たジャン。国際級だって!!」
「アジャジヤ、やっぱ、俺、帰るわ。恥の上塗りして帰ったんじぁ、母上にお叱りを頂戴する。」
「帰しっこ無いジャン。もう、お客さんは来ないから、身内の時間ダヨ。」

偉いオネェさんに捕まってしまったものである。国際級・下ネタインタビューに様変わりしてしまった。仲間内の馬並み・呆け話に弾む笑いの声・・・頻りである。聞く戯けに、吹聴する戯けである。『松本・井戸を巡る会』の後釜が、<痴呆を巡る下ネタ同好会>に発展してしまった。

     <嗚呼、我独り、慙愧の念に、縛られつつ> 
                  深夜の街を一人ペダルを漕ぐ帰宅であった。

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