旅行編、ショート編。旅行編は、エロチィック・エッセイ。ショート編は、日常些事のショート・エッセイ。創作編は、短編小説。マイ・ギャラリーは、各編の自作挿絵の収録。

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                とあるトイレ風景 その1
 グループ旅行らしき一行が、駅のトイレにドヤドヤと入って来た。年の頃は、30代の一行であろうか? 2人は大きい方へ、後から入って来た3人は先客を挟んで、別々に並んで前のチャックを下ろす。先客は、頭の禿かかった風采の上がらない痩せぎすの小男である。男の小便のエチケットとして、便器から「松の雫」が落ちぬ様に、一歩前進するのが倣いである。分厚い眼鏡を掛けている小男は、エチケット違反で、一歩後退の位置に立って発射中であった。従って後客3人の列からは、食み出ている。同根の誼であるから、3人は小男の便器に、何か不都合でもあるのかな? などと怪訝に思って、誰彼と言うまでも無く、3人の視線が小男に向かった。
<ウウッ>と3人の目が一瞬たじろんだ。<そうじゃあるまい?>
再び、しっかり確かめようとしたその時である。

       男達の背後の『大』の並びから、聞こえて来た声が、
「やや、紙が無ぇや、おい、栄ちゃん、紙有ったら、放ってくれよ。」
ブォー、ブリブリ、プスーッ、ブリブリ
「バカヤロゥ、汚ぇな。出る物も、出やしねぇ。ホレヨ、紙くれてやらぁ。」
            ボコン。
「オッ、痛ぇな。頭、直撃だぞ。」
であった。
<あいつ等、何を遣ってんだ?? 全く先が思い遣られる。> 小男を挟んで3人は、半ば呆れ顔であったが、そこは仲間である。ニヤニヤしながら『松の雫』をブルンブルンと白い陶器の便器に払っていた。年に一度の気晴らし・息抜き旅行が、始まって早々のズッコケ珍道中が顔を覗かせているのであった。

「おい、後ろの糞組。静かにしろ。仲間だ思われたら、好い迷惑だ。ゆっくり踏ん張って来いや。」

 小便3人衆は、ビールとツマミを売店で補充して、シートにドッカリと据わるや、性格のすばしこさが見て取れる目のギョロリとした短髪の男・西ちゃんが、開口一番、素っ頓狂なオクターブで、
「おいおい、見たかい?」
「見た見た。何だ、あの野郎、こんなにバカでかかったぞ。」
短髪西ちゃんと日頃名コンビを組んでいるヒョウキン者の順ちゃんが、すぐさま目を白黒させて応じた。
「諏訪は、さっき通り過ぎたのに、あれ、諏訪の御柱だったでしょう。ウフフ。」
「そうそう、違いない。オ・ン・バ・シ・ラ。テヘヘヘ。順ちゃん、冴えてる~。」
と、御柱に下卑た強調を施して、早速の調子を交換し始めた。貫禄に満ちた体格の良い茂さんは、さてこの話に如何合わせるかと、幾分自嘲気味の苦笑を右の口元に一つ浮かべている。向かい合わせに座る西ちゃんは、缶ビールを押し出して見せ、順ちゃんは、両手を拳にして重ねて、早くも全開モードである。茂さんも決めたらしく、目を見開いて、口をパクパクさせて、「オン・バ・シラ」と、おどけて見せた。何しろ、無礼講の3泊4日の親睦旅行である。缶ビール片手に、

「俺ぁ、あんな化け物、生まれて初めて見たよ。ありゃ、人間じゃ無ぇ。」
「ありぁ、山形名物の特大のコケシだったぜ。豪い物、見ちぃまった。魘されちゃうぜ、今夜。如何する? 下刺しで、口から出て来るぜ。」
「あんなの喰らったら、殺されちゃうぜ。」「おお、怖い。」「ありゃ狂凶器だ。一生、独身だぜ。」
「可愛そう、可愛そう、」「それ、持ち主に向って、被害者に向って? 目的語を明確に。」
脱線したら、当分止められないコンビである。手振り、素振りのオンパレードである。

<コイツラ、バカに付ける妙薬無しか・・・ 息抜き旅行である。幸い乗客は少ない。これも付き合いの内である。既に朝からビール・ビールである。速い事、飲ませ潰すが良策である・・・
コンビの口演に、茂さんも堪え切れずに、大笑いを連発している。各々、缶ビールを開けてグ~と喉に落し、ツマミの柿ピー、割きイカ、干しホタテを口に放り込む。ガリガリ、クチャクチャ、モグモグと口を動かし、グイグイ、ビールで落とす。3人とも酒で、上目蓋は赤く腫れぼったい。前のシートの『大』組も、トイレット・ペーパーのキャチボール顛末で、爆笑の最中であった。

「でもさ、あの野郎、他人に見せびらかしたくて、一歩下がって遣ってんじぁ無いの?」
「そう言えば、あのサル男、小便終わっても、出し放しだった感じがしたもんなぁ。」
「その気持ち分かるなぁ。世に奉仕出来て、初めての珍宝だもの。」
「そうよ。出番が無きぁ、静物だわサ。諏訪の御柱見たいに、拝んで貰うしかあるまいよ。」

  そう言われて、残りの2人は、
          ツマミを奥歯で磨り潰しながら頭の光景を、目で追っている。

「待て待て、そう言われれば、きっと、そうだ。ジロ~ッと横目で、俺の顔を見てたもの。」
「宝の持ち腐れって物だぜ。使えば凶器とくれば、男に見せて、男のコンプレックスを、盛り上げるって魂胆か。」
「茂さん、コイツ、ワンテンポ遅れてる。やっと解ったみたい。この位のビールで、駄目ネェ~」
「正しい使用法が、分かっちゃいねえ。逆恨みじぁないか。風体通り、考えが捻くれている。」
「アイ~ィ。話がスイッチ・バックするから、ビールは、俺達だけで飲みましょうや。」
「まあまあ、順ちゃん、ビールは私物だから。」

    3人は缶ビールを口に運びながら、
             少年探偵団の様な推理の表情で、タバコに火を付ける。

「そうかそうか、あの野郎、俺達のこんな情景を予想して、1人でニヤニヤしてるんだぜ。」
「カァ~、茂さんの推理じぁ、俺達、マンマと策略に引っかかったって訳か。」
「幾ら粗チンだって、婦女子の前で、出したら猥褻物チンダシ罪だもんなぁ。」
「馬鹿こけ、そんな生易しいものじぁなかったぞ。大事な婦女子がだ、あんな物見せ付けられたら、口から泡吹いてブッ倒れるぜ。それこそ、未婚女は、集団で修道院行っちゃうよ。」
「かと言って、防止策で、俺達が警察に告発する訳にも、行かんしなぁ。」
「ナヌ?? ナヌナヌ・・ 如何いう意味よ。解説、解説してよ。」
「当たり前じゃないか、そんな事言おうものなら、3人ともお回りの前で、出して見ろだわさ。」
「なるほど、順ちゃん、いい線だ。それから先は、どうなるや?」
「へへ、タンマ。茂さんの推理を聞こうじゃないの。」「そうだそうだ。その前に、もう一口。」

 3人は、缶ビールを手にタバコを蒸かしながら、トイレの怪人の残像をニヤニヤ思い描き、制服警官の前で一列に並ばされて、持ち物検査を受けるシーンを連想して見た。3人の連想が纏まるのには、時間は必要では無かった。両君の顔に交互に目を遣って、笑いを堪えていた茂さんの腹筋の力が、もう我慢の限界だった。プワ~と、鼻からビールの白い泡を吹き出した。

「ワッ、汚ぇ~」「避けろ。」「ウッ!!」

 ハンサム・マンの茂さんが、瞳孔を開いたまま、鼻を両手で抑えて、トイレによろけながら走って行った。<オウ、ヤベ~、間一髪、セーフってところだぜ。> 揺れる列車の便器にしゃがみ込んで、彼はホッと胸を撫で下ろした。<創造主の悪戯か? 人騒がせな男も居たものだ。> ビールの通った鼻の粘膜が、酷く不快だった。何度も鼻をかんで、席に戻った茂さんに、2人が言った。

「3人とも粗チンに付き、嫉妬に駆られた告発だなんて、お説教喰らうのが落ちか。」
「そうだ、一物に秀でるのも、天晴れ!! サル男の猿知恵に、カンパイだぁ~。」
「まぁ、そう言う事だな。色々言っても、相手が諏訪の御柱じぁ、勝負に為らん。」

 酩酊一行様を乗せて、車窓に、日本の風景が飛んで行く。初日の宿に着く前に、観光スポットの水族館に一行は案内された。水族館の陳列コーナーで、一行を待ち受けていたのは、地球最大の哺乳類鯨の<女陰>の展示物であった。茂さんを先頭に、西ちゃん、順ちゃん、その余りの巨大さと類似形に、声も無く口をポカンと開けたまま、暫し唖然と立ち尽くした次第であった。

 茂さん曰く、
「地球の神秘・雄大さに、ホトホト(女陰女陰)感心した。コケシ男に怯んでいたんじゃ、世の女族に挑む事、叶わず。男たる者、コケシ男を見習って、棍棒を鍛えるべし!!そうだろう、西ちゃん、順ちゃん。」

 西ちゃん、順ちゃん受けて曰く
「茂さん、お言葉ですが、人間、根性でも出来る事と出来ない事があるよ。あんなドデカイ万力が相手じぁ、オタマジャクシの供出以前に、身体中の水分全部、絞り切られちゃいますよ。完全・一瞬の内に、延しイカにされちゃいますよ。この旅行の主旨は、ヒョッとして、コンプレックス詣で? 朝から験が悪い。夜はプア~と、験直しに出かけましょうヤ。プア~と!!濃い処を。」

 その2、セブ島にて
 フィリピン・セブ島のとある近代的大デパートメント・ストアである。込み合うフィリピン客に混じって、中年真っ盛りの茂さん、西ちゃん、順ちゃんが、サングラス・Tシャツ・半パン姿で、ビーチサンダルをぺタぺタさせて物見見物をしている。茂さん、からっきし貫禄が無い。如何やら体調が、おかしい様子である。出っぷり太った腹を摩りながら、
「やぁ、参ったなぁ、さっきから、急に腹が痛くなって来た。」
「茂さん、水中りだよ。変な水飲んだんでしょう。」
「うん、トイレ、トイレは、何処だ?」
茂さん、顔を顰めて、腹を押さえている。
3人はトイレ・マークを探して、目をキョロキョロさせる。
「あったあった。あそこ。」
順ちゃんが指差す方向に、茂さん腹を押さえて、力の入らない小走りでトイレを目指す。
「茂さん、俺達、この辺りでブラ付いているから。ごゆっくり。」

 茂さん振り返らずに、その儘力なく、片手で<分かった>と合図だけして、中途半端な足運びで消えて行く。
「間に合うかな、水中りは、待った無しで、遣って来るからなぁ~。」
「下痢ピーは、堪えるからね。タイミング逃すと、お漏らしなんて事に成っちゃうからね。」

 茂さん、トイレの前でティッシュの自動販売機を見て、愕然とした。『トイレット・ペーパー有料』を思い出した。慌てて、短パンのポケットを弄るが、小銭などあろう筈が無かった。<如何する如何する>と目を、うろたえさせる。丁度良く、回収員の姿があった。もう一刻の猶予も無い、茂さん横隔膜を引き上げる様にして、下降爆弾を発射口寸前のゲートで食い止めようと、肛門を引き締め、必死の脂汗で堪えている。

 財布から取り出した1000ペソ紙幣を突き出して、「ギブ、ミィ、ペーパー。ハリアップ!!」である。然し、然しである。小柄・末成り風情の丸坊主フィリピン男は、自動販売機のティッシュ入れの手を止めない。

「プリーズ、ギブ、ミィ・ペーパー。」男は、1000ペソ紙幣に目を丸くして、頭をブルブル振り撒くって、ワタシお釣が無いとゼスチャーで応える。
「オーケー、ディスマニー、ユァ、チップ、プレゼント、ユー。」
「ノー、サンキュウ。10ペソオンリー。ユー、1000ペソ。」
「オッケー、ユー、プレゼント、ミィ、ワンペーパー。プリーズ、ヘルプ、ミィ」
「ノー、ノー、ヘイ、ユー、ユース、ユア、ハンド。オッケィ?」

            <ググゥー>
 茂さん尻に手を当てたまま、トイレに飛び込んだ。パンツを下ろした途端、便器に黄金水が、飛沫を飛び散らせて、内容物が、大腸を一気に下った。    <フゥ~、危機一髪!!> 
すぐさま、第二波が遣って来た。

<ググゥッ、ビビッ、ドドッ、ウゥ~、穴痛い、イタイイタイ。アァー、参ったね。アノ野郎、何が手で拭けだ。人の弱みに付け込みやがって、この国の人種は、一体如何云う頭の構造に成ってんだ。お釣は、チップだって、言ってるのにふざけやがって、お釣が無いから、売らねぇ、と来やがった。ググゥ、アア、イテテ。来た来た・・・ ピー、ドドッ・・・ 金が無ぇ以上、テメェの手で拭けと来たもんだ。武士の情けで、会見互いの気持ちが、何で働かねぇんだろ。ヤヤッ、また来やがった。ピピッ、プシャー・・・・ アア、痛い痛い。元々がとんでもない水を出すから、水中りじゃねぇーか。レストランの水は、飲料水じぁないか。飲んじゃ悪いのかよ。
プスプス・・・ フゥ~、プフ~、ピピ、・・・粗方出たかな・・・ 畜生、清めの水は、何処だ。コイツか。アア、嫌だ嫌だ。畜生、紙が有料だったら、ウォシュレットでも付けやがれ。バカヤロウメ。・・・・ハァハア、好いかな? 終わりかな。仕様がねぇな。誰も見ている訳じぁない。さてさて、始末を着けるか・・・      グリグリ、グリグリ、プスプス・・・
アア、又だ。俺ぁ、こんな国、もう嫌い。呪って遣る・・・>・・・茂さん、臭いトイレで半べそを掻いている。

 漸く漸く、トイレから仏頂面をした茂さんが、ヨロヨロと出て来た。トイレ近くのコーナーで、アイスクリームを舐めていた両人が、すかさず手を上げる。

「茂さん、大丈夫。顔青いよ。」
2人とも腹筋の力で、笑いを押さえ込んでいるから、茂さんの顔からは目を外している。
「当たり前だ、コレサ、飛行機乗って、手前の穴、手で拭きに来るバカが、何処に居るってんだ。」
「えっ、汚い。本当に、手で拭いたの。」

 茂さんのとんでもない『爆弾宣言』を聞いて、思わず口に出てしまった正直な気持ちであった。然し、長い付き合いである。ポンポン言った方が、こんな時は、お互い面白いのである。

「仕様が無いだろ。1000ペソでも、10ペソの糞紙も売ってくれねぇ冷てぇ国だもんなぁ。」
「それで、全部出ましたか。もう出す物さえ、出せば<性豪・茂さん復活>でしょう。ヒヒヒッ。」
「大丈夫な訳、無ぇだろ。振動の少ないタクシイ拾って、ホテルに帰るぞ。」
「そんなバカな、これからですよ。茂さん、我慢しましょう。悪い様にはシマセン。」
「我慢が肝心。その内に、落ち着きますよ。何だったら、茂さん、穴に杭ぞ打ちますか? 如何します。俺達、協力しますよ。ケケケ、長い付き合いだ。遠慮は要らないッスヨォ。」
「バカヤロ、テメラ、フィリピン野朗か!! 煩い。早くタクシィ呼んで来い。」

                                      2008年2月20日
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