旅行編、ショート編。旅行編は、エロチィック・エッセイ。ショート編は、日常些事のショート・エッセイ。創作編は、短編小説。マイ・ギャラリーは、各編の自作挿絵の収録。

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変なおじさん
                  変なおじさん
 俺たちは、田舎の小学5年生。仲間のトウタが、面白い話を持って来た。裏山の中に、変なおじさんが居て、面白いと言う。今度の土曜日、シゲルを誘って、3人で行くことにした。俺の名前は、エイジ。

 土曜日、小学校の校庭で8時、待ち合わせをした。コンビニで食料を買って、裏山に向った。途中までは、車一台分の道が通っている。40分も歩くと、開けた場所に出た。俺のじいさんの隠居部屋の様な6畳タイプのグリーンのプレハブ小屋が、一つ建っていた。軽トラックが、一台止まっていた。松の混じった広葉樹の緑が、梅雨明けの大空に輝いている。山の蝉時雨が、空の青と入道雲の白に、高く低く、ボリュームをうねらせている。後、2週間もすれば、夏休みが始まる。

「きっと、おじさん、いるよ。」
トウタが、言った。俺とシゲルは、変なおじさんを知らないから、一体どんな人か? 緊張した。
「お早うございます!! おじさん、今日は友達、呼んで来た。」
ドアをノックするトウタであったが、返事が無かった。ドアには、鍵が掛かっていなかった。トウタは、ドアを開けて、中に入る。リュックを下ろして、
「ここに、置いて行こう。」
トウタに言われて、俺達は、リュックを下ろした。部屋には、色んな物が、置いてあった。部屋は俺たちが入るには、狭かった。外でパンを食べていると、犬の吼える声が、聞こえて来た。
「ロンだ。」
テレビで見る警察犬シェパードが、吼えながらこっちに真っ直ぐ、走って来る。大きな真っ黒な突進である。
「ウァ~ッ、ギャ~」
引きつった顔の、シゲルのせっぱ詰まった悲鳴である。それが、俺にも伝染した。
「シゲル、エイジ。大丈夫!!」
トウタは落ち着いて、口笛を吹いている。シゲルは、俺の手を取るや、小屋に飛び込んで、ドアをロックして、窓から覗き込んだ。シゲルは、臆病なくせに反射神経だけはイッチョ前だ。トウタは、シェパードに体当たりをされて、飛ばされている。トウタは、シェパードに圧し掛かられて、上から長い舌で、ベロベロと舐められている。犬の涎が、ポタポタとトウタの顔に落ちている。
「ウワッ、すげえや、猛犬だ。ああ、汚えゃ。」
シゲルは、まるで、自分が舐められているかの様に、顔をクシャクシャにして、ブルブル身体を震わせているくせに、ドアロックに安心して、興奮の実況放送をしている。シゲルは、状況が、そのまま支配してしまう、ちょっと世話の焼けるヤツだけど、面白いヤツである。それにしても、乱暴な大型犬シェパードだ。あんなのが、突然、山から出て来たら、猛獣そのものだ。俺だって、ションベン、ちびらせちまうよ。

「ロン、止め、お座り!!」
「オッ、猛犬が静かになった。」
トウタのヤツは、凄い。笑っているのである。トウタの家にも、大きな犬がいる。俺たちは、犬だって、ヘッチャラなんだけど、シェパードの凄味、迫力は、猛獣にしか見えない。あの大きく裂けた口、尖った牙、ランランと光った目は、とてもじゃないが、人間の友達の犬になんか、見えやしない。テレビで見る荒野の狼、そのものじゃないか。近付くには、大いに、勇気が必要だ。人が手を振って、歩いて来る。俺は、もう少し、様子を見ていた方が、好いと思った。

「シゲル、ほら、あれが、変なおじさんじぁないか?」
ダーク・ブルーのTシャッ・カーキ色のズボン、頭をタオル掛けした大きな人だ。顔には半分白くなった髭を生やしている。ガッチリした肉体派のおじさんだ。手を振っている。

「オゥ、ボウズ達、良く来たなぁ、カアチャン達には、ちゃんと断って来たかぁ~。どうした、中のボウズ、こっちに出て来いや、名前は、何て言んだ。」
 
 シェパードに負けないくらい迫力のあるおじさんだ。Tシャツから出た腕は、サラリーマンの親父よりも、太い。顔は、時代劇のスターの様な男ぽい好い顔をしている。それでも、目はきれいで、優しい。上手く表現できないが、貫禄・魅力のある55~60歳位のおじさんだ。

「シゲル、好いおじさん見たいだ。行こう。」

 しり込みするシゲルの背中をドンと、叩いてドアを開ける。目前に、シェパードが、肩を低くして、俺たちを見据えて、ウゥーと牙を剥いている。俺たちは、怯んで身動きどころか、心臓がギュンと締め付けられて、脂汗が浮き上がるのを感じていた。ウゥーと、シェパードが、俺たちの体に近付いて来る。俺とシゲルは、シェパードのロンに、散々匂いを嗅ぎ回られた。恐いと思って、目を閉じたら、勝負は負けだ。俺は頑張って、ロンの目を見続けた。でも、ロンの眼力には適わなかった。小学5年生と猛犬とでは、凄味の迫力が違い過ぎた。俺とシゲルは、ただ身体を固くして、ロンに覚えてもらうしかなかった。トウタのヤツは、<お前たちダラシが無い>と言う顔で、威張って見える。おじさんは、タバコを吹かして、ニヤニヤしている。

「良し、好いだろう。ロン。」

 おじさんは、ロンを横に座らせた。猛犬ロンは、行儀良く座って、両耳をピンと立て、長い舌を出して静かに呼吸している。俺たちを見る目は、優しく成っていた。目を閉じたり、開いたりしている。おじさんに、訓練された猛犬だと思った。必要以上に、恐がらなくても良さそうだ。俺は、シゲルに耳打ちしてやった。目だけ動かして、ロンが、こっちを見た。やっぱり俺たちは、子供扱いらしい。自己紹介をする。

「おじさん、今日は、何をするの?」 トウタが聞いた。
「うん、何をするか・・・ 遊びに来たんだろう? 適当にやってなよ。」
「何か、手伝うことあったら、俺たち、手伝うよ。」
「アハハ、傑作な事、言うじゃないか。アリガトさんよ。」

 おじさんが、話してくれた。ここは、おじさんの作った自給自足の国だと言う。小川の水を引いた池には、イワナ、ヤマメ、カジカ、ニジマスが、自然のままに放してあるし、カワエビもサワガニも、一杯いると言う。畑には、野菜が育ててあるし、食べられる山野草は、部屋に本が置いてあるから、それで調べると好いらしい。米と飯ごうも、置いてあるから、自由に使って好いとの事である。全ては自分で調達して、作って食べるのが、おじさんの国の法律だと言う。用心棒は、ロンがしてくれるそうである。

「じぁな、ボウズども、しっかり頑張れや。」
「はい、おじさん、おじさんは、どうするの?」
「俺は俺で、自分の分だけ、調達するだけだよ。但し、ここに居る時は、持って来た物は、一切、食べる事、禁止だよ。それに、不必要な殺生は、するな。それさえ守れば、後は自由。」
「え~、ジョークでしょ。」
「バカこけ、入った以上は、時間に成らないと、帰さないぞ。」
おじさんに、恐い顔で睨まれてしまった。おじさんは、用事に言って来ると、軽トラで出て行ってしまった。

 とは言われても、俺たちは、買い食い育ちの小学5年生だ。どうする、どうするの、作戦会議をした。トウタは、アウトドアで、飯ごうでのご飯炊きは、したことがあると言う。シゲルは、先生の子供だから、図鑑調べに向いている。俺は、クラスのボスだから、勇気と機転を持っている。いざとなれば、半日位、空腹でも人間、死にはしないだろう。夏休みの遊び場探索で、充分である。

「じぁ、こうしよう。米と飯ごうはあるから、後回しにしよう。野菜も畑にあるから、それも後にしよう。焚き木拾いと魚取りをしよう。伸び盛りの俺たちには、タンパク質が必要だ。」
「そうだ、そうだ。」「賛成!!」

 トウタを先頭に、俺たちは、小川に行った。昔は山田だったのだろう。幅50cm位の農業用水が、草の中に流れている。昔の田んぼは、畑に成っている。トマト・キュウリ・ナス・マメ・大根・ネギが、植わっている。リンゴ・柿・梅・桃・ブドウの果樹も、植わっている。田んぼの一枚が、池に成っている。沢水を集めて、池は澄んでいた。水面に昆虫を捕食する水紋が、幾つも見える。近付いて見ると、魚影が悠々動いている。

「エイジ、デカイのが、いるぞ。釣竿ないぞ。どうする?」
「下が泥だろ。ズッポリ、はまり込むぞ。入って手づかみも、できないぞ。」
「池の出口は、どうなっている?」
「あそこだ、結構、流れているぞ。」
「うん、池と小川は、行き来があるぞ。小川を探ろう。絶対いるぞ。下から探って、行こう。」

 俺たちは、這いつくばって石の隙間を、一つ一つ探って行く。指の先に、ヌルリとした感触があった。<しめた!!> 俺は、ボスである。対ロンの失態は、カバーしなければ、トウタに舐められてしまう。トウタのヤツは、自慢気の強い性格だ。今日、俺を誘ったのは、アイツの下心が、アリアリだ。そんな手には、乗らんぞ。俺が凹んだら、学校で大人しいシゲルたちが、切ない思いをする。
ヌルリとした魚体は、石の奥へ逃げ込もうとしている。俺は考えた。逃げられない様に、石の周りを掻き出した小石で、囲むことにした。トウタは、サワガニを捉まえているらしい。モヤシっ子・シゲルには、期待できないだろう。奥は、もう無い。俺の手は、もがく魚体の腹に届いている。もう逃げることは、できない。根競べだ。片手しか入らないから、弱らせるか、口に指を押し込んで、引っ張り出すか・・・ 俺は、痛いのを我慢して、ソロリソロリと、指を魚体の腹部から口に這わせて行く。エラに差しかかった。もう、一息だ。口に掛かった。ギザギザした歯が当たる。ムンズと、指を口の奥に差し入れて、そのまま引っ張り出した。

          「やったぞ、大物だ。ヤマメを取ったぞ。」
 俺は、大声でグッタリしたヤマメを、誇らし気に、両手でかざした。指から、薄っすら血が滲んでいた。「ウァッ、すげえや。」「やっぱり、エイジだ。」トウタとシゲルが、駆け寄って来た。

 こんな所にも、大物が潜んでいると思うと、皆、色めきたった。然し、駄目だった。俺たちは、サワガニ・カワエビ・カジカを丹念に探すしか無かった。疲れた。収穫は、サワガニ10匹、カワエビ4匹、カジカ3匹であった。太陽は、昼を越えていた。用心棒のロンは、日陰で高みの見物を決め込んで、俺たちの一部始終を見ている。

   何か、ひどく、俺たちは、自尊心を傷付けられている心境だ。
 腹の虫が、グーグー泣いている。枯れ枝を集めて、飯を作らなければならない。

                                    <猛犬と子供達より>
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